2019年10月5~7日 屏風岩東壁雲稜ルート (個人山行)


行程
1日目:10:00上高地BT→12:30~13:00横尾→13:20徒渉→14:10 T4取付→14:20徒渉→14:30横尾
2日目:4:30横尾→4:40徒渉→5:20~5:50 T4取付→7:20~7:40 T4→9:30 扇岩→12:55登攀終了(5p終了点)→14:30 T4→15:40 T4取付→16:40横尾
3日目:7:30横尾→10:15上高地BT


メンバー:L::S谷、K藤

 ずっと憧れていた屏風岩。高低差400mの言わずと知れた日本のビッグウォールである。夢を夢で終わらせたくないと思い、春先からアブミ登攀の練習とフリーの技術向上に努めてきた。今年は週末に天気が崩れることが多く悶々としていたが、やっと機会に恵まれた。

 1日目。この日は取付の下見をして横尾でテント泊をする予定だ。予報によるとかなり暑くなるそうで、8時に大庭駅に集まった時点で既に暑い。上高地へ向け車を走らせる。
 沢渡は混雑していたが、バスにすんなり乗車できた。予定通り上高地に着く。ここから重い荷物を背負って平坦な道を淡々と進む。横尾までがやたら長く感じる。それにしても天気が良い、快晴だ。そして横尾に着くと既に多くのテントがある。S谷さんに急かされ、準備をして下見に出た。涸沢方面に向かうと20分ほどで横尾岩小屋跡の道標に辿り着いた。ここから河原に降りると徒渉点だ。水の量はそこそこだが渡れなくはない。沢ソックスに履き替え、ストックを突きながら慎重に渡る。水の冷たさはこの日の高温のせいか、それほど苦にはならない。そこからすぐ右側に1ルンゼ押出があり、ルンゼをつめていく。道は花崗岩がごろごろしていて明瞭だ。心配していた落石もなく歩きやすい。歩いていると頭上からコールが聞こえてくる。小一時間でT4取付きに着いた。真正面で捉える屏風はどでかい壁だ。東面だからか日が陰っている。明日は寒いのかなと想像しつつ、試登もしないのでそそくさと帰る。時間が早かったが、テントではすることもないので、すぐ床に就いた。が、久々のテント泊のせいかほとんど眠れなかった。

 2日目。3時半に起床し、準備をする。満点の星空で今日の天気には期待が持てそうだ。準備をして4時半出発する。足取りは軽く、まもなく徒渉点に着いた。昨日より大分冷たいが、沢ソックスのお蔭でまだましだ。T4取付きに着くと、先行パーティーの明かりが1ピッチ目の終了点に見えた。準備を整え、明るくなった壁に取付く。リードは私。取付いてみると壁がかなり立っている。まだアプローチだと軽く見ていたが、完全本チャンだ!適度なスリルが心地よい。2ピッチ目はS谷さんがリード。序盤の左の岩へトラバースするところが濡れていて、A0突破したが非常に怖かった。その後は樹林帯の歩き。最後の部分だけ乗越があり、少し難儀した。
 そして遂にT4に辿り着く。広くて解放感があり素敵な場所だ。目の前には1ピッチ目の岩壁が迫る。1ピッチ目、リードはS谷さん。どこまでも空に突き上げるような魅力的なラインだ。淀みない動きでどんどん高度を上げていく。好天も相まって、その姿はただひたすらかっこいい。しかし、核心でさりげなくA0しているのを見て思わずニヤリとしてしまった。フォローで私。シチュエーションといい、最高のピッチだ。最後の核心は確かに苦しく、うんと伸びてガバをとる。
 次の2ピッチ目は先行者が難儀している声が聞こえてくるが、カンテの向こう側なので様子が分からない。少し待って自分のリードで開始する。ピナクルに向け右上していくはずだが、カンテの向こう側も見えないし頭上のピンも遠くて届かない。かなり悩んだ挙句アブミを出し、一段上がるとピンが続いているのが見えた。そこから簡単かと思いきや、微妙な手と足場の繊細なクラインミングが要求された。A0をまじえながらなんとかピナクルへ抜けた。すぐ左上には扇岩があり、あとはほぼ歩きで辿り着いた。扇岩も広くて平で安らげる場所だ。先行者はなんと3ピッチ目をフリー(11c)で登っている。すごい。その内S谷さんも上がってきた。ここで徐々に曇ってきて寒くなってきたので上着を着る。
先行者のフォローを見送り、3ピッチ目S谷さんのリード。アブミのピンの間隔は先日行った大ヤスリより近いが、直線的にピンが配置されているわけではないので、落下防止のコードが交錯し難儀している様子だ。しかし、すっきりしたフェースでこのピッチも非常に絵になる。草付のハングの下でピッチを切ると、次は私。S谷さん同様コードが絡まって時間がかかる。中盤で1か所ピンが遠く、横着して目の前の古ぼけた細引きにアブミをかけてしまった。体重をかけた瞬間「バチン」と音がし、フォールした。幸いフォローだったのでほとんど落ちなかったが、恐怖で心身ともに強張った。そのあとはその余韻を引きずってしまい、ビビりながら登った。特に後半フリーになる個所は本当に恐る恐るという感じで登った。
 S谷さんが切った支点まで来ると、次は4ピッチ目私のリード。まず直上、フレークのガバをとるまでが少し遠い。アブミに乗ってなんとか届くが、掴んだフレークは脆そうだ。慎重に持って、右へのトラバースに移る。足場のリッジは大きいのだが、手がなくて怖い。思わず頭上の草を掴みたくなる衝動を何度も抑え、トラバースの区間の終わりで一旦ピッチを切った。5ピッチ目(本来は4ピッチ途中)S谷さんが草付を右上し、すぐにピッチを切った。ここは特に問題なし。
 6ピッチ目私の番になった。左側のスラブへ出ていくが、様子が分からないので左へ少し出て休憩しながらルートを確かめる。どうも壁の右側のクラック沿いに登っていくようだ。取付くとピンは等間隔で打たれているが、壁が濡れている。しかもクラックに手を突っ込むと手も濡れた。とてもじゃないが正々堂々とは登れない。アブミを出してびちょびちょの面を越える。その後もスラブの厭らしさが続く気の抜けないピッチだった。支点まで着いて玉切れ。すぐ上に懸垂支点が見えたが、S谷さんに任せることにした。そしてS谷さんが懸垂支点に着いた。その上はもう草付が続く不要なピッチだと思ったので、ここで終了。互いに健闘を称えあう。(1ピッチ省略してしまったことに降りてから気づいた。しかしクライミングは実質あそこで終わりだろう)想像以上の難しさ、というか怖さを登り切った達成感に浸るものの、上からの落石が脛に当たり恐ろしかった。後続がいるなら上に抜けるのは控えるべきだろう。
 次は下降だ、次のポイントが完全に見えないのでいつもより緊張する。高度感も凄まじい。懸垂3回で扇岩降りた。次は扇岩からロープだし歩きながら、登ってきた方向とは反対の大テラスへ。ここから50mロープ一杯でT4へ辿り着いた。とりあえずここまで降りられたことに安堵しつつ、小さく下降を繰り返しながら下部岩壁を降りた。T4取付に着き、装備を片付けると日は陰ってきていて、長いクライミングは終わった。1日中クライミングシューズを履いた足が悲鳴をあげている。あとは安全に帰るのみ。5時前に横尾に着き、安堵感で胸がいっぱいになった。ゆっくり夕食の準備をし、勝利の美酒で乾杯した。夢の1日が幕閉じた。

 実際登ってみて想像以上に難しく、各ピッチともグレード以上のものを感じた。自分自身まだまだと思う一方で、目標のため練習に取り組んで成果が出せたことは本当に良かったと思う。春先から屏風屏風と言い続けてきて、ようやく夢が実現した3日間でした。時に家族を犠牲にして(?)アブミの練習からの付き合ってくれたS谷さんには本当に感謝したい。  (K藤記)

 (以下S谷記)
昨年、クライミングを続けるには目標が大事だねとK籐氏と話していた時に、屏風岩の話が上がり一瞬ためらいもあったが、勢いに任せ行こうということになった。
そのために大町の人口壁であぶみの練習を何度か行い、瑞牆の大ヤスリ岩へも行った。
 T4の取り付き尾根は、T4で前泊する人がテントなどを担いで登っているので、なめていた。しかし実際は大違い。最初から本チャンではないか。
 T4に着くと、4回目という先行パーティーの人たちがおり、簡単に登っていく。
 1P目は50m。10本以上持っていたヌンチャクがなくなりそうになる。最後は疲れてA0、K籐氏にしっかり見られてしまった。ここはあぶみを使うルートなので、A0を何度してもOKと自分に言い聞かせた。さすがは有名なルート。A0しようがあぶみ使おうが、とても登りごたえがある。3Pのあぶみを使った直登ルートはとても気持ち良かった。
 6P(5P目?)のスラブは濡れておりピンも微妙に遠い。私はフォローなので助かったが、リードしたK籐氏さすがである。最後の終わりがスラブの末端なので少し物足りなさを感じたが完登を2人で祝い下降する。下降ルートでは、ロープが引っ掛かり登り返しがよくあるようなので、下調べをしっかり行い難なくT4へ降りることができた。
 今回は天気に恵まれパーティー数も2パーティーだけでマイペースで楽しく登れることができ最高でした。
 クライミングを始めて10年目、私が屏風岩に登るとは夢にも考えていなかったことが実現できたのは、良きパートナーのおかげである。K藤氏に感謝します。

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  • 屏風岩全容
    屏風岩全容
  • 徒渉
    徒渉
  •  下部岩壁1p
    下部岩壁1p
  •  下部岩壁1p
    下部岩壁1p
  •  1pリードS谷
    1pリードS谷
  •  1pリードS谷2
    1pリードS谷2
  •  2p終了点から
    2p終了点から
  •  3p目リードS谷
    3p目リードS谷
  •  3p終了点からフォローK藤
    3p終了点からフォローK藤
  •  5p終了点
    5p終了点
  •  6p濡れたスラブ
    6p濡れたスラブ
  •  終了点
    終了点
  •  終了点から
    終了点から
  •  T4まで懸垂下降
    T4まで懸垂下降