2020年11月 1日(日) 明星山P6南壁フリースピリッツ (個人山行)


行程
5:00展望台駐車場→5:30フリースピリッツ取付→6:00登攀開始→8:30 ウメボシ岩(5ピッチ終了点)→10:50中央バンド(9ピッチ終了点)→12:30パノラマトラバース(12ピッチ終了点)→14:00登攀終了(14ピッチ終了点)→15:30渡渉地点→16:00 展望台駐車場


メンバー:L /S谷、K藤

  ガイドブックで明星山を知り、トポを見てグレード的にフリースピリッツが登れそうだなと漠然と思っていた。ただ行ったことがないので、手始めに左岩稜からと思い、今回の山行の2週前に左岩稜を登りに行ったのが初めてだった。実際に山を目の前にして驚いた。なんだこのスケールは!穂高の屏風岩並の大岩壁じゃないか!?しかも登ってみると慣れない石灰岩に加え、簡単に岩が動く。実際、登攀中も電子レンジほどの大きさの落石が川に向かって豪快に落ちていた。完全に意気消沈した私はフリースピリッツの計画の中止をS谷さんに申し出て、明星山のことはしばし忘れることにした。
 しかし、あの大岩壁が脳裏に焼き付いて離れない。行くならこれが今季最後のチャンスかもしれないと思うと、恐怖より登りたいという欲求の方が勝ってしまった。前言撤回、S谷さん、やっぱり行きましょう!
 
10月31日(土)
 前日は少し雨が降ったようだったが、大した量ではなさそうなので淡い期待を込めて決行することにした。暗いなか糸魚川へ向かうと路面が濡れている。これはだめかも。。。
 駐車場に着くと岩は部分的に黒いが全体的には白い。取付きに行ってみることにした。河原へ下りるとすでに1,2パーティ、あれ、よく見ると3組目もいる。時間は6時半過ぎ。これはだめかも。。。
 (2回目)とりあえず我々の後続はいなかったため、渡渉せず様子を見ることにした。様子を見ながら時間だけが過ぎていく。何度か行っちゃうか!やっぱりやめよう、というやりとりをしつつ、やはり先行のペースが芳しくなかったため、撤退することにした。今回は7時間~8時間でトップアウトできなければ途中敗退だ。フォローも含め30分に1ピッチのペースが必要とされる。順番待ちなどできない。翌日もっと早く集合することを決め、10時頃まで展望台で登ってる人を眺めながらルートの確認を行った上で帰路についた。

11月1日(日)
 2時に自宅のある茅野市をでる。夜は翌日のクライミングのことが頭から離れず、あまり眠れなかった。そして5時過ぎに駐車場に着く。ヘッデンを点け、暗い中すぐに河原へ下降を始めた。時間は5時半、取付きへは1番乗り。しかし、まだ夜が明けない。明るくなるのを待っていると続々と後続がやってくる。昨日あんなにルートを確認したはずなのに、真下から見ると全然違う壁のように見える。
 6時、まだ薄暗いが自分のリードで登攀開始。草付は結構立っている上に支点が全くとれない。やっと頭上に終了点を発見。フォローの確保に入って下を見たとき、愕然とした。
 なんと後続が5m程下の草付を歩いて別の終了点を目指しているではないか!1ピッチ目からルートを間違えたのである。とりあえずS谷さんを上にあげ、トラバースして正規ルートに戻れるか確認するが、それは無理そうだった。話し合った結果、懸垂で一旦取付きまで降りるしかないという結論に達する。下を見ると大勢の順番待ちをしているクライマーが全員こっちを見ている。もうだめだ、折角1番乗りだったのに最後尾になり撤退するしかない。そう思うと絶望で体が震えてきた。S谷さんごめんなさい。
 私の状況を見てS谷さんが一旦落ち着くように言った。そして懸垂下降を始める。すぐ下の正規ルートまで降りると、なんとすぐ傍に終了点が!!これで取付きまで降りないで済む。神に感謝し(?)素晴らしき支点様で仕切り直し。2番手にはなってしまったが、大丈夫いける!極力時間をかけないよう2ピッチ目を登る。2ピッチ目終了点に着くと、先行者がルート取りを間違えたらしくまさかの1番手に復帰。ただ、私はまだ動揺していたらしく、いくつかミスをしていてS谷さんに深呼吸を促される。
 3ピッチ目はS谷さんのリード。ここからいよいよ直線的に壁を登っていくことになる。昨日展望台さんざん登りを見ていた序盤の核心部のアンダーだ。S谷さんここはなんなく超えるが、上の岩で右からいくか左からいくか迷っている。私は昨日偵察していた通り右じゃないかと声をかけ、それが正解だったようで無事ピッチを切った。4ピッチ目はバンドに沿うように一旦少しあがり、少し下がって右上していく。難しくないが、高度感のあるトラバースで緊張する。慎重にあがりピッチを切る。5ピッチ目、核心のウメボシ岩へのハングのトラバースをS谷さんリード。S谷さんも少し泣きが入り(テンションはかけていない)、ルートが正しいか聞いてくる。しかし、ルートはどう見てもあっている。ハング下はホールドが多いように見えて意外となく、終了点手前が特に苦しかった。次も核心。ウメボシ岩の乗越からのトラバースである。乗越は体が壁の傾斜をモロに受けて苦しく、今落ちたら真下でビレイするS谷さんに激突だななんてぼんやり思った。しかしガバがとれ、プロテクションがとれると一安心。次は下降気味のトラバース。目の前の棚にヒーフックし、乗り移るもハングに頭を押さえられ苦しい。S谷さんから足は一段下げスメアだとアドバイスをもらい、下に下がるがとても恐ろしい。見えない向こう側のホールドをうんと手を伸ばしてとり、なんとかピッチを切った。
 7ピッチ目、次は再び高度を稼ぐピッチになる。S谷さんが右のカンテに消えて行く方向へ進む筈だが、左に行ったり迷っている。最後には意を決し右から抜けていった。実際いってみるとかなり立っていて難しかった。S谷さんはプロテクションが取れるまでかなり痺れたと思う。8ピッチ目ハングの切れ目から登り、その後草付き。出だしは傾斜が強く左から右に乗り移る際に足元がばっくり空いているので非常に恐ろしかった。すぐに草付きに出たが、全くプロテクションがとれない上に次の支点がどこだか分からない。傾斜は落ちたが岩がボロボロで慎重に登る。一番登りやすいところを行くとどんどん左に行ってしまいそうだ。しかし、トポではやや右上のはず。20m以上ランナウトし不安になりながらもほぼまっすぐ上がった結果、ネットで見たナイフのような岩とリングボルトが見え、低木に残置ロープが下がっているのを発見した。やった正解だ、安堵してピッチを切る。9ピッチ目S谷さんリード、ナイフ状の岩のクラックを登る。下から見ると寝てるので簡単そうに見えたが、ホールドは少なくかなり奮闘した。終了点まで行くと中央バンドに出た。ここも岩がボロボロ。慎重に座る場所を確保し、この日初めての休憩。ずっと気が抜けなかったためほっとした。でも緊張からか食欲はあまりなく、行動食をほとんど食べられなかった。S谷さんも疲れたらしく後の難しいピッチは任せると言われた。
 次の上部のバンドのルートについてS谷さんと意見を交わしあう。2本ラインがあり、どうも判然しない。とりあえずコンテで中央バンドを渡り、支点を探してみることにした。するとS谷さんの思っていたラインの始まりがテラスになっていて支点こそないものの次のピンが見える。正解だ。11ピッチ目S谷さんリード。バンドを右上し、最後に直上する。もっとも間違えやすいルートファインディングが胆のピッチだ。トポに書いてあるピッチの長さを確認し、ロープが出過ぎたら行きすぎだと2人で確認する。S谷さんが見事に正しいハーケンの終了点を見つけ、ピッチをきる。さすがです。次はパノラマトラバースへ向けて私のリード。ここも迷ったら難しいルートに出てしまう。トポの「カンテ右の垂壁~バンド右上~階段状の凹角」を頭にしっかり入れ、スタートする。出だしの垂壁がなかなか難しくてプロテクションが取れるまで気が抜けない。ピンが少ないのでカムが有効だった。垂壁を抜ける確かにバンドがあり導かれるように右上、最後の凹角も立っていて気が抜けないが、なんとかパノラマトラバースのラインにたどり着く。痺れたー。迷いやすいピッチを無事切り抜けたことで安堵した。時間的にも申し分ない。
 続いてはルートのハイライトであるパノラマトラバース。高度感が凄まじい。S谷さんは落ち着いて一段下の一見足がなさそうな草付に足をつけ、冷静に超えていった。沢の経験が活きているようで、沢ではあまり上に上がらないことが基本らしい。私も真似をして同じ段をいくと簡単だった。すぐにピッチを切り、再び直上のスラブ。Ⅵのグレードがついているが、ピンの間隔は短く、安心して登れる。私にとってここは普段のフリーっぽくて快適だった。そのあとは草付に出て終了点を見つけピッチを切る。
 14時実質登攀終了、理想通りの時間に終わらせることができた。出来すぎなぐらい上出来である。一応トポではもう1ピッチか2ピッチ直上していくようになっているが、草交じりを適当に上がるだけのようだし、もうシューズのせいで足が痛く、クライミングを楽しむどころではない。下降路に向けて尾根に向けてトラバースすることにした。下降路を探して右往左往するうちにピンクリボンのついた松が見えたので、松に向けて懸垂を交えながら斜め下へ下降。無事下降路に入り、前回の左岩稜の時は真っ暗だった道を下る。明るくても悪く、疲れもあって何度かスリップして泥だらけになった。そして4時に駐車場に着く。まだとても明るい。まさかこんなにうまくいくとは思わなかった。

 今回、今までやってきたこと総動員してベストを尽くすことができ、心の底から満足している。全てのピッチが個性的で全く気の抜けない素晴らしいルートだった。グレードこそ最大5.8だが、ピンは少ないし傾斜が強いのでプロテクションが取れるまで非常に緊張した。ルートファインディングが今回の鍵で、ミスすればあっという間にノーピンの世界。私も結構事前に調べたつもりでいたが、S谷さんはもっと詳細に調べていて大分助けられた。頭が下がります。前日に中途半端に取りつかず偵察に徹したのも功を奏したと思う。
 そして、S谷さんの総合力の高さをまた改めて知ることになった。何度も沢で危機的状況に追い込まれた経験が活きているのだと思う。今回登れたのはS谷さんのお蔭です。本当ありがとうございました。(K藤記)

以下S谷記
 そろそろ60歳を過ぎ、膝・腰が悲鳴を上げてきている。こんな体でフリースピリッツ?と不安をもちつつも何とかなるだろうとK藤さんの誘いに二つ返事で決める。
 だがやはり甘くはなかった。前日に下見をしているにも関わらず、1p目は右隣のACCルートに入ってしまった。3p目は壁の際を登るルートと右のクラック沿いに登るルートがあり、左にはハーケンが見える、右は登りやすそうだがハーケンなどの支点が見えない。迷っているとK藤さんから右ではと言われ右に行く。左の壁際を行かなくて正解だった。終了点手前はかなり厳しい状況だった。梅干し岩から右へトラバースし、カンテを登る場所も右と左どちらを登るか迷う。
ここも左に登ってから右のカンテを越えようと思って取り付いたが、うす被りで厳しい。ひやひやしながら降り右にとりつく。ルートファインディングはまだまだと痛感する。
 どこのピッチもV前後が続き気を抜けない。中央バンドに着いたときはかなりばてていた。
後半の厳しいところはK藤さんに任せることにし、フォローに回る。下調べではパノラマルートまでが結構迷っている。慎重にK藤さんと打ち合わせをし取り付いたためか、迷わずクリア。
ポイントは中央バンドから右へランぺを50m右上するが綺麗なペツルの支点の5mほど手前を直上すると、3mほどでリングボルトの古い支点があり、そこが正解。
 あとは肌色の岩の右上を目指して登るとよい。
 今回は6パーティーほど取り付いていたが、明るいうちに下に降りられたパーティーは3~4パーティーだろうか?
 全部で15ピッチ、最初から最後まで気の抜けない8時間の登攀は、とても充実した楽しいクライミングだった。パートナーのK藤さんに感謝である。(S谷記)

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  • 明星山全容
    明星山全容
  •  3ピッチフォローK藤
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  •  4ピッチ目フォローS谷
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  •  5ピッチ目ウメボシ岩でピッチを切る
    5ピッチ目ウメボシ岩でピッチを切る
  •  6ピッチ目からビレイヤーを撮る
    6ピッチ目からビレイヤーを撮る
  •  11ピッチ目上部のもっとも迷やすいピッチ
    11ピッチ目上部のもっとも迷やすいピッチ
  •  パノラマトラバースをリードするS谷
    パノラマトラバースをリードするS谷
  •  パノラマトラバースフォローK藤
    パノラマトラバースフォローK藤
  •  尋常ではない高度感。ギアを落とさないかヒヤヒヤする
     尋常ではない高度感。ギアを落とさないかヒヤヒヤする
  • 014ピッチ目スラブをリードK藤
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