2016年 7月15日~ 7月17日(金~日) Matterhorn(マッターホルン (20周年記念)


行 程
15日;ツェルマット13:00→(ロープウエイ)→シュワルツェー14:00(2583m)→ヘルンリ小屋(3260m)16:00
16日;ヘルンリ小屋(3260m)4:30→ソルベイ小屋(4000m)8:00~8:20→4300地点13:00(折り返し)→ソルベイ小屋18:00(ビバーグ)
17日;ソルベイ小屋7:00→ヘルンリ小屋12:00~13:00(3260m)→シュワルツェー15:00(2583m)→ツェルマット15:30

(一日目)
 13日までは悪天候で雪。14日からから晴れるということで、ヘルンり小屋を15日に予約するとスムーズに取れてしまった。そのことで半分浮かれてしまい、我々はアタック日を慎重に吟味せず、ヘルンリ小屋に入ってしまった。ツェルマットからロープウェイでシュワルツェーまで上がる。そこから見たマッターホルンは、ツェルマットでみたマッターホルンより、更に大きく、圧巻され感動した。シュワルツェーからヘルンり小屋まで約2時間。整備されたトレッキングコースとなっており、緊張感はなく、ゆっくりと景色を楽しみながら歩く。途中、日本人の団体ツアーに出会い、軽く会話をする。他にも日本の老夫婦カップルにも会い、長話をする。スイスに計20日間程滞在し、のんびりとハイキングを楽しんでいるらしい。そんなこんなで、明日は登頂だけを夢みて、ヘルンり小屋までの歩きをを楽しんだ。
 ヘルンり小屋は、昨年改装しただけあり、きれいだ。設備も山小屋を想像させないほどにできている。値段も高いのだから当然だが(¥15000)。モンブランのいずれの小屋(グーテ・コスミック)も¥8000代と、懐に優しいお値段であったが、スイスの物価の高さなのか、マッターホルンという強みなのか、貧乏山屋に対して優しさくはない。ガイドなしでは、ヘルンり小屋は取れないという噂?ネット情報?もあるようであるが、改装しベッド数が増えてからの予約状況を書いたものは見当たらず、果たしてシーズン最盛期でも本当に取れないのか?私は甚だ疑問が残る。あまり、ネット情報だけを頼るのはどうかと今回思った。“予約が取れない”ということだけが先走ってしまい、実際に予約が取れたことで、浮わついてしまっていた。ヘルンり小屋の宿泊客は、少なく、ざっと数えても30人いるかどうかであった。
 その夜、白馬で国際ガイドをしている滝本さんとお会いする。お客さんを連れて来られており、一緒に食事をしながら色々な情報を頂いた。今日は、スイスガイドが入っていないということ。だから空いていること。つまりここで、明日は雪が多く、登りに適さない日であることを告げていたにも関わらず、見送ることを考えなかった。またヘルンリルートは基本的に3級ルートで設定されているということ。4,5級の難しいルートがでてきたら、それは外れていると思ってよいとのことであった。ヘルンリ小屋の夕食は19時と遅い。さすがにお値段だけあり美味しかったが、量が多く個人的にデザートを平らげるのがきつかった。
(二日目)
 3:15起床。朝食時には、山小屋のスタッフが起きず、前夜のうちに朝食は用意されており、それを各々が食べていくこととなっていた。モンブランは深夜1:00出発でも、スタッフは起きて支度をしていてくれていた。スタッフがいてもいなくてもどちらでも構わないが、この違いは何なのか?
 4:30ヘルンり小屋を出発。最初の取付きは、FIXロープが張っており間違うことはない。このロープは、日本のよりはるかに太い。全てが欧米サイズ?握るのも一苦労である。このFIXロープでほぼ垂直に上がり、少し棚に出ると、そのまま岩溝を上がるようにまっすぐに上がっていく。暗い為、周囲の状況はわかりにくい。ここから、少しずつ稜線から反れ、稜線の左側を歩き続けることになっているが、岩稜が大きく、稜線の位置を把握することも難しいし、今我々がどこに位置しているのかもわかりにくかった。結果、他のパーティーと同じルートを歩く。後で見ると、第1クーロワールの時点でも、かなり稜線に近いラインを取って歩いていたのではないかと思われる。3600m~3700mまでは迷いやすいとあった。
 3800mのアルテヒュッテには、明らかに稜線沿いを歩き、正面に出てきていた。後でルートと照らし合わせると、かなり稜線から外れ、右手に出てくるようになっている。この道が正しいルートなのかは誰もわからない。ただ、左右を確認しながら歩けるだけの余裕がないことも事実である。この辺りから雪が多くなり、3900m付近でアイゼン装着となる。ソルベイ小屋ヒュッテの直下付近で、諦めて折り返してくるパーティーとすれ違う。先に行っていた滝本ガイドも、4200m付近で、雪が多く無理と判断され下山し、すれ違った。この時点で8時前。後の情報で、滝本ガイドのパーティーは、最終17時ロープウェイ3分前に到着したということから、下山に9時間を要していたことになる。我々のペースでは、この時点で最終ロープウェイに間に合うはずがなかったのである。
 8時過ぎ、4000mのソルベイ小屋に到着する。10分程休憩の後、歩き出す。ここから急登となり1ピッチだけロープを出す。その後は、マッターホルンの肩の辺りまで、ロープを出すことはなく上るが、アイゼン装着は自ずとスピードを落とす。マッターホルンの肩は、雪田になっており、皆がロープを出しているということで出してみた。ここで1組折り返す。所々にしっかりした杭の支点がある。ネット情報で、上にドンドン確保のシュリンゲをかけてくると、抜けなくなる、または引っこ抜かれるということで、ヌンチャクを持っていくのが良いのではとあった。
 けれどもこの支点は、想像以上に太く、実際には横からは入らない。今回、トップが無意識にビナを杭の上から通した。その後、韓国組のパーティーが、上から確保支点を取った為、セカンドで登った私は、抜こうにも抜けない。韓国組のパーティーが、親切にも自分のシュリンゲを外してくれたから上から抜くことができた。こういうところでまた時間をロスした。シュリンゲをタイオフするのが、一番ベストなやり方であること、アルパイン経験の少なさがよくわかる事例だと思った。
 肩を上りきると、左へトラバースする。ここで、下ってくるパーティーと交差し、ルートは込み合っている。岩稜帯(アクセル陵)の脇を上がり、赤い塔にでるが、降りてくるパーティーとすれ違いが難しく、結局悪いとわかっているルートを確保して登らしてもらった。
 ここからFIXロープが張ってあり、FIXにセルフと取り、上がる。稜線沿いにでて、かなり風が強い。この部分で、パーティーから「登れない」という声があがり、13:00前に4300m地点で折り返しとなる。あの折り返した時のあの場面の情景は、忘れることがないほど今も目に焼きついている。“ここで敗退か…一生後悔するのだろうな~”と。
 この時点では、ヘルンリ小屋まで降りる予定であった。けれども、実際は、数えきれないくらいの懸垂をし、18時にようやくソルベイ小屋に着いた。歩けなくなっている仲間もおり、このままヘルンリ小屋まで降りるのは難しいと判断し、ビバークを決める。ビバークするなら、頂上踏めばよかったとまた無念残る。追いつき追い抜かれとしていた韓国パーティ―が、頂上を踏んで20時頃ソルベイ小屋に到着した。その後も、5人ほどソルベイ小屋に入ってきて、小屋は床に寝る状態であった。私達も、4人で1Fのベッドを占領していたが、半分を譲り、膝を曲げて一晩を過ごす。
(三日目)
 皆が出発した後、ゆっくりと下山する。ここからまた懸垂。また数えきれないほど懸垂をする。私は、せっかくロープを2本持って行ってるのだから、必要に応じて50m懸垂をしたいと思った。しかし、S谷が“引っかかる”ということで却下された。こういうところでも、お互いに経験の少なさがでる。本当に引っかかるのかどうか、どの程度の懸垂なら良いか、判断がつかないからだ。今日は降りるだけ、ゆっくりと確実に降りる。アルテヒュッテを越してからは、懸垂は2回程したか?後はクライムダウンで降りられた。飲まず食わずでおり、ようやく12時にヘルンリに到着する。約5時間。あまりの空腹に、ヘルンリ小屋で高いランチを食べる。しばし休憩をし、ヘルンリ小屋を後にした。
《追記》
 この後も良い天気が続き、1日おいて、K藤がガイド同伴で頂上を踏む。ガイドと一緒に歩いたルートと行程時間は明らかに違う。ガイドルートに関しては、後述の記録を参照してほしいが、雪の状態を加味しても、やはりルートを知らずにガイドレスで登る場合には、2泊3日の行程で検討することが望ましいと思われる。
《登頂できなかった要因》
①前日までの天候から残雪は考えられ、その先の天気予報を加味した場合、登頂成功の可能性は後半の方が高いにも関わらず、アタック日を慎重に考慮しなかった。(モンブランに登った勢いで、やや浮足立っていたように思う。)
②残雪、冬期のアルパイン練習を、この数年みても行なっていなかった。そのため、アルパインの不慣れな動作があらゆる部分に認められた。
③モンブランも含め、ヨーロッパの山では、長い時間の行程が要求されると思ってよい。高所トレーニング対応の練習はしたが、ほとんど休憩なし、わずかな食糧と水分で、12時間を超えるような長い行程の登山練習は行っていなかった。持久力と精神力の鍛え方が不足していた。

K藤個人山行
 7月19日~ 7月20日(火~水) Matterhorn(マッターホルン)登山 ガイド付き 
 
行程:19日;ツエルマット 12:00→(ロープウェイ)→シュワルツェー13:00→ヘルンリ小屋(3260m)15:00
   20日;ヘルンリ小屋(3260m)4:00→ソルベイ小屋(4000m)6:00→山頂(4478)6:55~7:10(スイス側、イタリア側)→ソルベイ小屋(4000m)8:35→ヘルンリ小屋(3260m)10:30
   
(一日目)
 18日に幸運にもガイドを予約でき、もう一度登れることになった。ヘルンリ小屋でガイドと19時前に合流、そのまま一緒に夕飯を食べ交流を深める。翌日ガイドが着くのは14組と聞いた、食堂もまだ余裕があり、ベッドも余っていた。食事が終わると各自の部屋にて担当ガイドと装備のチェックが行われた。
 オーバーパンツ・スパッツ・ピッケルは不要、ギアも環付カラビナ×1、シュリンゲ60cm×1(セルフビレイ用)だけでよい言われたので、荷物が凄く軽くなった。また空のテルモスがあったので、食堂で甘いお茶のようなものを補給させてもらった。他に朝は忙しいので、装備を全て装着した状態で食堂に3:30に来るよう言われ、打ち合わせは終了。就寝した。
(二日目)
 3:15起床。装備を整え、食堂へ向かう。パン、シリアルで簡単な食事をとり、小屋の入り口へ並ぶ。この時ガイドがロープをつないだ。ロープは20~30m,太さは10mm程度シングル用と思われる。4時頃一斉に出発。空はまだ暗いが暖かく、風もない。私は長袖一枚で丁度良かった。
 登攀はガイドが先行し、それに続く。ガイドの導くルートは岩はうまくに階段状になっていて(岩は大きく登りづらいが)、前回登った時はルートを外していたのがよく分かった。そして少し難しい箇所はガイドに待つよう言われ、ビレイしてもらう。特に凍っている箇所、雪渓の通過の際は注意するよう促され、ガイドも気を配っていた。また同時登攀中も杭状の中間支点にロープを一周回し、通過するとさっと解除する。見事な技である。
 ガイドのペースは速いが私も高所順応は完璧、ついていく。そうするとガイドもペースを上げ、他のガイド組をルートの脇から抜かし始め、気が付いたら先頭にいた。そしてソルベイ小屋に着く。ここで最初の休憩をいれたが、5分と休憩しなかった。行動食を口に押し込み、もぐもぐしながら登攀を再開した。
 ここからは尾根をほとんど忠実に進んだ。さほど怖いとこはない。肩の雪田に着くとアイゼンを装着するよう指示があり、若干の休憩。雪は4日前に比べ腐っていて、ステップはしっかり着いていて怖くない。ちなみにガイドもピッケルを持ってきていなかったが、全く問題なかった。そしてそのすぐ先にはフィックスロープ帯が待っていた。前回引き返した地点辺りは大分雪が減っていた。ここからロープをつかみ、登っていく。だんだん傾斜が強くなっていき、一番厳しい部分にはロープに加え簡素な梯子も設置してあった。フィックスロープが終わると頂上はもう目の前、なだらかな雪田を進む。マリア像を過ぎ去り、7時前にスイス側山頂に着く。
 やった!ついに夢にまで見た山頂に着いた。しかも本日一番乗りだ。英語で正しいのか分からない感嘆詞を叫び、ガイドに感謝を伝える。イタリア側山頂も行くかと提案され、行くことにした。スイスとイタリア山頂の間はナイフリッジで少し足がすくむ。イタリア側は十字架がありここでも記念撮影した。
 7:10下山開始。ここからはほとんどロワーダウンで下してくれるので速い、速い。ガイドはクライムダウンする。ロワーダウンは杭状支点には3回ほど巻いただけで抵抗力をつくり、ボルトには環付カラビナをかけ半マストで下す。先にロワーダウンして待機している間はセルフビレイを取るよう指示された。3800m位からはほとんどクライムダウンで降りた。ガイドは後ろからついてフォローする。途中危ない箇所はガイドのように杭の中間支点を取るよう指示された。前回3400m付近でリッジを懸垂下降した地点は通らず、右側から巻いていった。そして10:30にヘルンリ小屋着く。受付でバッチと登頂証明書をもらった。担当ガイドは翌日も登るので、このまま小屋で休むと言っていた。
<<感想>>
 ガイドレスとガイド付きどちらも経験してみて、ガイドを付けると体力勝負になってしまい、登攀の難しさはほとんどなくなってしまうように感じた。正しいルートでは難しい箇所はあまりない。(難しい部分はすべてフィックスが張ってある)ただガイドのペースは速く、休憩もほとんど取らない。速攻登山が安全につながるとのヨーロッパの考えからなのか、ここは見習いたいところである。個人的にはマッターホルンはルート探しが一番ネックであり、時間がかかってしまう原因と思った。ガイドレスではロープ、ギヤ等荷物が増えるのでその点もスピードにかなり影響した思う。

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  •  シュヴァルツゼーに行くロープウェイ乗り場前で
     シュヴァルツゼーに行くロープウェイ乗り場前で
  •  シュヴァルツゼーから見たマッターホルン
     シュヴァルツゼーから見たマッターホルン
  •     ヘルンリ小屋までのトレッキングコース
    ヘルンリ小屋までのトレッキングコース
  •  モンテローゼをバックに
     モンテローゼをバックに
  •   左後ろがモンテローゼ
    左後ろがモンテローゼ
  •  ヘルンリヒュッテ
     ヘルンリヒュッテ
  •  ヘルンリヒュッテの食堂にかかっている注意書き(ガイドとクライアントのために4時前の出発は禁止とある)
     ヘルンリヒュッテの食堂にかかっている注意書き(ガイドとクライアントのために4時前の出発は禁止とある)
  •  登りだしのところ(下山時に撮影。出発時は真っ暗)
     登りだしのところ(下山時に撮影。出発時は真っ暗)
  •    登りはじめのFIXロープ
    登りはじめのFIXロープ
  •  アルテヒュッテ(これも下山時に撮影。登り時は薄暗い中通過。下山は懸垂)
     アルテヒュッテ(これも下山時に撮影。登り時は薄暗い中通過。下山は懸垂)
  •  先に見えるのがソルベイ小屋。徐々に雪が増える。
     先に見えるのがソルベイ小屋。徐々に雪が増える。
  •  3900m付近この辺りでアイゼンをつける 
     3900m付近この辺りでアイゼンをつける 
  •  ソルベイ小屋手前の登り
     ソルベイ小屋手前の登り
  •  ソルベイ小屋 4000m
     ソルベイ小屋 4000m
  •  ソルベイ小屋すぐの登りだし 急登 ロープを出す
     ソルベイ小屋すぐの登りだし 急登 ロープを出す
  •  ソルベイ小屋以降の登り
     ソルベイ小屋以降の登り
  •  FIXロープ 縦+横である 
     FIXロープ 縦+横である 
  •  マッターホルンの肩マッターホルンの肩 (雪田)
     マッターホルンの肩マッターホルンの肩 (雪田)
  •  岩稜帯(アクセル陵)の手前
     岩稜帯(アクセル陵)の手前
  •  岩稜帯(アクセル陵)を超してからのFIXロープ ここで敗退4300m付近
     岩稜帯(アクセル陵)を超してからのFIXロープ ここで敗退4300m付近
  •  敗退地点から下方を映す
     敗退地点から下方を映す
  •  岩稜帯(アクセル陵)を降りて、肩に向かうところでの懸垂
     岩稜帯(アクセル陵)を降りて、肩に向かうところでの懸垂
  •  リッフェルゼーから見たマッターホルン
     リッフェルゼーから見たマッターホルン
  •  逆さマッターホルン(運よく風が止まり見られたが一瞬であった)
     逆さマッターホルン(運よく風が止まり見られたが一瞬であった)